大判例

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札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)542号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

「被告の定めた就業規則およびそれと一体をなす賃金規定、運航乗務員乗務手当支給基準(以下これらを一括して「本件就業規則」ということがある。)には、運航乗務員には乗務手当を支払うものとし、その支給額は、飛行時間が四〇時間に達しない場合には四〇時間分相当の乗務手当を支払う(保障する)旨の定め(以下「月間四〇時間分の保障」という。)があつた。」が「被告は原告らに対し、昭和五一年二月分および同年三月分の乗務手当を二〇時間分しか支払わない。」(請求の原因)、これに対して被告は「乗務手当は、本来実乗務(飛行)時間に応じて支払われるものであり、その保障は常に乗務すなわち運航を前提にしているものであるところ、被告は、昭和五一年二月一日から三月末日までその運航業務を全面的に停止(全面運休)したので、原告らが右期間中乗務(飛行)する可能性はなかつた。」(抗弁、1)、「被告は、前記運航乗務員乗務手当支給基準のうち、乗務手当保障額を全面運休中は二〇時間分とする旨本件就業規則を改訂し、昭和五一年二月から施行した。」(抗弁、2)として争つた。

【判旨】

二そこで抗弁について判断する。

1 (抗弁1について)

被告が昭和五一年二月一日から同年三月末日までその運航業務を全面的に停止(全面運休)したことは当事者間に争いがないところ、<証拠>ならびに弁論の全趣旨によれば、被告の従業員は賃金についての本件就業規則(昭和四九年制定、同五〇年改訂)の適用について一般職職級と乗務職職級との二種に分けられ、一般職については、その職級号俸により定められた額の本給と、その本給の三〇パーセントに六六五〇円を加えた付加給が支払われるのに対して、乗務職(運航乗務員)については、乗務手当が支払われる場合には、その年令によつて定められた額の本給の他に付加給が支払われることはなく、右以外の種類の手当等の支給については、一般職と乗務職とで特段の差異はないこと、そして、乗務員の本給の額は一般職の本給および付加給の合計額と比較するとき、相対的にかなり低額なものであること、ところで、被告の運航路線五線のうち冬期間(少くとも毎年一月から三月)に運航可能なのは札幌―中標津線のみで、他の路線は右期間運休となるのが常態であり、その間全然乗務しない運航乗務員もいるが、被告は、その間も当該運航乗務員に対して月間四〇時間分の乗務手当を保障して支払つていたこと、さらに被告は、本件就業規則において運航乗務員が業務外の傷病または災害で乗務できなくなつた場合にも乗務しなくなつた日の翌日から六カ月間は右月間四〇時間の乗務手当を保障する旨定めていることの各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右各事実に照せば、本件就業規則により保障された月間四〇時間分の乗務手当は、事実上一般職に対する付加給に相当し、実質的にみていわゆる固定給の一部を構成するものと解されるので、乗務の可能性がない場合、従つて運航乗務員の実乗務時間が全然ない場合にも適用されるべきものであり、また実際も当事者間でそのように解され、かつ運用されていたものというべきである。

そうすると、乗務手当の月間四〇時間分の保障は常に乗務、すなわち運航を前提にしている旨の被告の主張は採用することができず、その余の点について判断するまでもなく、抗弁1は失当である。

2 (抗弁2について)

被告がその主張のように本件就業規則と一体をなす運航乗務員乗務員手当支給基準を変更(改訂)し、昭和五一年二月一日から実施したことは当事者間に争いがなく、右変更が運航乗務員の実質賃金を減額するに等しいものであることはすでに説示したところから明らかであり、従つて、それは運航乗務員の労働条件を同乗務員に不利益に変更するもの(この点は被告も自認するところである。)にほかならないが、右変更に関し運航乗務員たる原告らが同意したことについては主張立証がない。

ところで、就業規則は、本来、経営主体が一方的に作成し、かつ、変更できる性質のものではあるけれども、既存の労働契約との関係から、右のように就業規則の変更により労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されず、ただ、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されないと解すべきである(最大判昭和四三・一二・二五民集二二・一三・三四五九参照)。しかし、右の合理性は個々の労働条件の種類、性格に応じて個別的にその存否を決すべきものであり、賃金、労働時間等労働契約上最も重要な労働条件の変更については、既存の就業規則作成当時予見できなかつたような著しい事情の変動が生じ、しかもその変動は客観的経済情勢の変動等経営主体の責に帰し得ない事由によるものであつて、従前の労働条件をそのまま維持させることが信義則上も妥当でないと認められるなどの特段の事情がないかぎり、前記合理性の存在は肯認できないと解するのが相当であるところ、本件についてこの点をみてみるのに、証人国領茂満の証言によつても右特段の事情を認めるには足りず、他にこれを認めるべき的確な証拠もない。

別紙目  録

番号

氏  名

昭和五一年二月分

同年三月分

合  計

1

花田孝順

八万二二〇〇円

八万二二〇〇円

一六万四四〇〇円

2

松尾勝人

八万二二〇〇円

八万二二〇〇円

一六万四四〇〇円

3

岡田幸三

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

4

各務 昭

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

5

口井文夫

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

6

高池国夫

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

7

長浜俊宣

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

8

船越朝彦

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

9

平川清広

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

10

山口隆夫

五万三三〇〇円

五万三三〇〇円

一〇万六六〇〇円

11

黒沢秀隆

三万七三一〇円

三万七三一〇円

七万四六二〇円

そうすると、前記乗務手当支給基準の改訂により、乗務手当を月間四〇時間分保障する旨の既存の労働条件を原告らに不利益に変更することについての合理的理由はないというべきであるから、改訂された右支給基準の合理性も認めがたく、これを原告らに適用することは許されないといわなければならない。

従つて、被告の抗弁2はその余の点について判断するまでもなく失当であつて、採用できない。

(尾方滋 田中優 矢村宏)

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